この記事を書いた人
はり師・きゅう師(国家資格) 整骨院勤務15年の現役鍼灸師パパ。 肩こり・腰痛・産後ケアを専門に、のべ数千名を施術。 現在は0歳の息子を育てながら、リアルな育児体験をもとに情報発信中。
鍼灸院や整骨院で「肺が弱ってますね」と言われて、きょとんとした人は多いと思います。
「え、レントゲン撮ってないですよね?」「呼吸器の病気ってことですか?」と。
安心してください。東洋医学でいう肺は、西洋医学の臓器としての肺とは、ちょっと意味が違います。呼吸だけでなく、皮膚、鼻、汗、体のバリア機能、そして気持ちのゆらぎまで含んだ、もっと広いはたらきの名前です。
そして東洋医学では、秋は肺の季節とされています。
10月になると、空気が乾いてきますよね。喉がイガイガする、肌がカサつく、朝に咳が出る、鼻がぐずぐずする。子どもも大人も、なんとなく秋っぽい不調が出てくる時期です。これがまさに、東洋医学が「肺の季節」と呼んできた理由です。
この記事から、五臓シリーズとして、体の見方の柱になる「肺・腎・脾・肝・心」を1つずつ掘り下げていきます。第1回は、季節に合わせて「肺」から始めます。
この記事でわかること:
東洋医学では、体のはたらきを5つのグループに分けて考えます。それが**五臓(ごぞう)**です。
| 五臓 | 主なはたらき(ざっくり) | 季節 |
|---|---|---|
| 肝(かん) | 気の巡り、血の貯蔵、感情の調整 | 春 |
| 心(しん) | 血を巡らせる、意識・精神 | 夏 |
| 脾(ひ) | 食べたものを力に変える | 長夏(梅雨) |
| 肺(はい) | 呼吸、体表の守り、水の通り道 | 秋 |
| 腎(じん) | 生命力の貯金、成長・老化、水の管理 | 冬 |
ここでいちばん大事な前提があります。
五臓は、解剖学的な臓器そのものではありません。
「肝」は肝臓のことだけを指しているのではなく、「心」も心臓だけの話ではありません。それぞれが、体の中の機能のまとまりにつけられた名前です。
だから東洋医学で「肺が弱い」と言われても、呼吸器の病気があるという意味ではありません。「呼吸・皮膚・鼻・バリア機能のグループが、いまちょっと元気がない」というくらいの見立てです。
五臓と関係の深い「気・血・水」の考え方は、こちらでやさしく解説しています。 → なぜ育児でこんなに疲れるの?東洋医学の「気・血・水」で読み解く
肺の担当範囲は、思っているより広いです。5つに分けて見てみます。
呼吸で外の空気(清気)を取り込み、食べものから作られた気と合わせて、全身を動かすエネルギーにする。これが肺の一番の仕事とされています。
だから東洋医学では、肺が弱るとすぐ疲れる、声が小さくなる、息切れしやすいといった形で出ると考えます。「気力がない」の「気」が足りない状態です。
肺は、体の表面を守るバリアのようなエネルギー、**衛気(えき)**を体表に行き渡らせているとされます。
衛気がしっかりしていれば、冷たい風や乾燥から体を守れます。逆に不足すると、風邪をひきやすい、季節の変わり目に必ず体調を崩す、寒気を感じやすい、といったことが起きやすいと考えます。
これが面白いところで、東洋医学では皮膚は肺の担当です。
「肺は皮毛(ひもう)をつかさどる」という言い方があります。呼吸と皮膚は、外の世界と接する境界という点で同じ役割だ、と考えたわけです。
だから、秋に肌が乾燥する、かゆくなる、というのは、肺のはたらきと結びつけて見ます。汗のコントロールも肺の管轄です。
鼻は肺の窓口とされます。鼻づまり、鼻水、においがわかりにくい、といった症状は、肺の状態と関係づけて考えます。
秋に鼻がぐずぐずしやすいのは、まさにこれです。
肺は、体の水分を上から下へ配る役目も持つとされています。「水の上源(じょうげん)」という言い方をすることもあります。
肺の調子が落ちると、痰が出る、むくむ、といった水のトラブルにつながると考えます。
そして、肺と大腸は表裏の関係にあるとされます。秋に便が乾いて出にくくなるのを、肺の乾燥と結びつけて見るのは、この考え方によります。
経絡(けいらく)という体の道筋の話は、こちらにまとめています。 → 経絡(けいらく)ってどんなもの?初心者向けにわかりやすく解説
五臓にはそれぞれ、苦手なものがあります。
肺が苦手なのは、燥(そう)=乾燥です。「肺は潤いを好み、乾燥を嫌う」という言い方がされます。
秋になると空気が乾きます。夏の湿気が抜けて、湿度がぐっと下がる。この乾いた空気が、まず鼻と喉に当たります。
すると、こんなことが起きやすくなります。
| 秋によくある症状 | 肺との関係 |
|---|---|
| 喉がイガイガする、乾く | 肺の潤いが減っている |
| 空咳が出る(痰が少ない乾いた咳) | 典型的な「燥」のサイン |
| 鼻が乾く、鼻血が出やすい | 鼻は肺の窓口 |
| 肌がカサつく、粉をふく | 肺は皮毛をつかさどる |
| 便が硬い、コロコロになる | 肺と大腸は表裏 |
| 風邪をひきやすくなる | 衛気(バリア)が弱る |
そしてもう一つ、秋に肺が弱りやすい理由があります。
夏の疲れです。
夏に汗をたくさんかくと、体の潤いが減ります。冷たいものをたくさん摂ると、消化の力が落ちて、潤いを作る材料も減ります。この状態で乾いた秋に入るので、肺が乾きやすくなる。東洋医学では、この夏から秋への流れをセットで見ます。
10月は気温差も大きいので、体はさらに消耗します。 → 寒暖差疲労とは?朝晩の冷えで崩れる自律神経を整える方法
東洋医学のおもしろいところは、感情も五臓に振り分けている点です。
肺に対応する感情は、**悲しみ・憂い(うれい)**です。
「悲しみは肺を傷る(やぶる)」という言い方があります。逆に、肺が弱ると理由もなく気持ちが沈みやすい、とも考えます。
秋になると、なんとなく物寂しい気持ちになることはありませんか。日が短くなって、夕方が早くきて、風が冷たくなって。昔の人はこれを「秋は悲しみの季節、だから肺を養いなさい」と表現しました。
古典(黄帝内経)にある秋の養生も、かなり穏やかです。
現代の言葉に置き換えるなら、秋は攻めずに整える季節ということだと思います。
育児中は、そもそも穏やかにしていられない毎日ですよね。だからせめて、「秋は気持ちが沈みやすい季節だ」と知っておくだけでも違います。自分を責める材料が1つ減ります。
気持ちが張りつめているときの見方は、こちらも参考になります。 → 「気が滞る」ってどういうこと?気滞の症状とセルフケア
難しいことはしません。秋の肺養生は、ほとんどが潤いを守るという一点に集約されます。
いちばん効きます。乾燥した空気を吸い続けることが、肺にとって最大の負担だからです。
加湿器がなければ、濡れタオルを部屋に干す、洗濯物を室内に干す、洗面器に水を張るだけでも変わります。湿度計を1つ置いておくと、感覚に頼らずに済みます。
赤ちゃんがいる部屋では、加湿しすぎてカビが出ないように、60%を上限の目安にしてください。
東洋医学では、五臓それぞれに合う色があるとされ、肺には白が対応します。
秋に食べたい白い食材は、こんなところです。
| 食材 | 期待される働き(東洋医学的に) |
|---|---|
| 大根 | 気を巡らせ、痰を切る |
| 白きくらげ | 潤いを補う代表格 |
| れんこん | 喉と肺を潤す |
| 梨 | 乾いた咳・喉の渇きに |
| 百合根 | 潤し、気持ちを落ち着ける |
| 山芋 | 気を補い、体を潤す |
| 豆腐・豆乳 | 潤いを補う |
| はちみつ | 喉を潤す(※1歳未満は絶対にNG) |
科学的にこれで治る、という話ではありません。ただ、旬のものを食べるという意味では理にかなっています。梨やれんこんが秋に出回るのは、偶然ではないと思います。
注意:はちみつは1歳未満の赤ちゃんには絶対に与えないでください。 加熱しても防げません(乳児ボツリヌス症)。
肺に対応する味は「辛味」で、少しなら肺を助けるとされます。ただし摂りすぎると、潤いを飛ばして逆効果と考えます。
秋は、激辛より、ねぎ・生姜・大根くらいの穏やかな辛味がちょうどいい、というイメージです。
肺の養生に呼吸を入れないわけにはいきません。
たったこれだけで、肋骨まわりが動きます。抱っこや授乳で前かがみの姿勢が続くと、胸郭は縮んで呼吸が浅くなります。1日3回、思い出したときにやるだけで十分です。
肺のバリア(衛気)を守るなら、風を直接当てないこと。首の後ろと、鎖骨のあたりです。
秋の外出時に襟のある服やストールを1枚持つ。それだけで、体感はかなり変わります。
朝に喉が痛い人は、寝ている間に口呼吸になっている可能性があります。
寝室の加湿、マスク、枕の高さ。特に枕が高すぎると、あごが引けて口が開きやすくなります。
道具なしで押せるものを選びました。ツボ押しの基本ルールは、先にこちらを読んでおくと安心です。 → ツボ押しの正しいやり方と押してはいけない場所
肺の経絡が始まる場所とされ、抱っこで胸が縮んでいる人はここが硬いことが多いです。
赤ちゃんに使う場合は、押すのではなく触れる・さする程度にしてください。詳しくはこちら。 → 赤ちゃんに喜ばれるベビーマッサージ入門
ここまで東洋医学の話をしてきましたが、いちばん大事なのはここです。
東洋医学の見立ては、病気の診断ではありません。
次のような症状があるときは、養生やツボで様子を見るのではなく、医療機関を受診してください。
赤ちゃんの場合は、さらに早めの受診を。呼吸が速い、胸や首元が呼吸のたびにへこむ(陥没呼吸)、母乳やミルクが飲めない、ぐったりしている。これらはすぐに小児科へ。夜間・休日は #8000 も使えます。
秋から冬は、感染症も増えます。「肺を養っているから大丈夫」ではなく、養生は医療の代わりではなく、隣に置くものと考えてください。
東洋医学の基本を知りたいとき → 東洋医学の「気・血・水」で読み解く疲れやすい体の正体
経絡について知りたいとき → 経絡(けいらく)ってどんなもの?初心者向け解説
鍼灸そのものが気になるとき → 鍼灸って痛い?怖い?初めての人の疑問10問に答えます
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風邪をひきやすくなったとき → 育児疲れで風邪をひきやすくなった…東洋医学的に免疫を上げる方法5つ
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東洋医学の「肺」は、呼吸だけの話ではありません。皮膚、鼻、汗、体を守るバリア、そして気持ちのゆらぎまで含んだ、大きなはたらきのまとまりです。
そして肺は、乾燥にいちばん弱い。だから秋は肺の季節と言われてきました。
やることはシンプルです。
| ポイント | やること |
|---|---|
| 潤す | 湿度50〜60%、白い食材、水分をこまめに |
| 冷やさない | 首の後ろ・鎖骨まわりを風にさらさない |
| 深く吸う | 1日3回、吐く息を長めに5回だけ |
| 沈んでも責めない | 秋は気持ちが沈みやすい季節、と知っておく |
僕自身、季節の変わり目に体調を崩しやすいタイプです。整骨院でも、この時期は「なんとなく調子が悪い」という人が急に増えます。だからこそ、秋は無理に鍛えるのではなく、足りないものを補う季節だと思っています。
今日できることは、部屋に濡れタオルを1枚干すことと、深呼吸を5回。それくらいで十分です。
この記事は五臓シリーズの第1回です。今後、季節に合わせて残りの四臓も掘り下げていく予定です。
五臓は一つずつバラバラに動いているわけではなく、お互いに助け合ったり、抑え合ったりしています。全部読み終わるころには、自分の体を東洋医学の目で見られるようになるはずです。次回もぜひ読んでみてください。
※ 本記事は一般的な東洋医学・セルフケアの情報であり、医療行為や医師の診断の代替ではありません。咳・息苦しさ・発熱など気になる症状がある場合は医療機関にご相談ください。赤ちゃんの症状で迷うときは小児科・小児救急電話相談(#8000)へ。
整骨院勤務15年・鍼灸師パパより