この記事を書いた人
はり師・きゅう師(国家資格) 整骨院勤務15年の現役鍼灸師パパ。 肩こり・腰痛・産後ケアを専門に、のべ数千名を施術。 現在は0歳の息子を育てながら、リアルな育児体験をもとに情報発信中。
11月に入ると、朝の空気がはっきり変わりますよね。
夜中の授乳やおむつ替えで起きたとき、足の裏がひやっとする。抱っこから下ろしたあと、腰が「うっ」と重い。日中もなんとなく疲れが抜けない。育児が特別ハードになったわけじゃないのに、体だけが先に冬モードに入っていく感じがします。
僕自身、この時期は毎年「腰と冷えが同時に来るな」と思っています。整骨院でも、寒くなると腰痛と冷えの相談が一気に増えます。育児中の方はとくに顕著で、「夏はなんとかなっていたのに、寒くなってから急にきつい」という声をよく聞きます。
東洋医学では、この「冷え・腰・スタミナ切れ」がまとめて出てくる状態を、**腎(じん)**というキーワードで考えます。
五臓シリーズ、第2回のテーマは腎です。第1回でお伝えした「肺」が秋の乾燥と守りの話だったのに対して、腎は冬を越すための土台の話になります。

この記事でわかること:
まずここを外すと、あとの話が全部ズレます。
東洋医学の「腎」は、西洋医学でいう腎臓(おしっこを作る臓器)とイコールではありません。もちろん重なる部分もありますが、東洋医学の腎はもっと広い「はたらきのグループ」を指します。
ざっくり言うと、腎は体の元手(もとで)を預かっている場所です。
貯金にたとえるとイメージしやすいです。生まれたときに持っている貯金があって、そこに毎日の食事と睡眠で少しずつ入金する。逆に、働きすぎ・寝不足・冷え・過度なストレスで出金される。この口座を管理しているのが腎、という考え方です。
腎が担当していると考えられているのは、たとえばこういうものです。
| 腎が関わるとされる働き | 弱ったときに出やすいサイン |
|---|---|
| 体を温める土台の力 | 冷え、とくに腰から下・足先 |
| 腰や膝を支える力 | 腰の重だるさ、膝に力が入らない |
| 生命エネルギーの貯金 | 疲れが抜けない、朝から消耗している |
| 水分の巡りの調整 | 夜間のトイレが近い、むくみ |
| 髪・歯・骨の元気 | 抜け毛、髪のパサつき |
| 耳の働き | 耳鳴りがする、聞こえにくい感じ |
「腰が重くて、足が冷えて、なんか疲れが抜けない」――育児中にありがちなこの3点セットが、東洋医学ではひとつのつながりとして説明できてしまう。ここが腎のおもしろいところです。
そして、腎は冬にいちばん消耗しやすいと考えられています。だから11月のうちに手を打っておく意味があるんです。
東洋医学の基本的な考え方をまだ読んでいない方は、こちらもどうぞ。 → 鍼灸と西洋医学の違い・使い分け方
腎の貯金が減る原因は、東洋医学ではだいたい決まっています。そして残念なことに、そのほぼ全部が育児中に揃います。
腎の貯金は、寝ている間に補充されると考えます。深く眠る時間が、いちばんの入金タイミングです。
夜泣きや授乳で2〜3時間おきに起きる生活は、この入金がずっと中断されている状態です。トータルの睡眠時間が同じでも、細切れだと回復の質が落ちます。育児中の疲れが「休んだのに抜けない」独特の疲れになるのは、ここが大きいと思っています。
睡眠の質については、こちらで詳しく書きました。 → 【睡眠不足のパパ・ママへ】量より「質」で乗り越える
腎は冷えに弱い、というのが東洋医学の見方です。
とくに腰から下です。冬の床は冷たいし、赤ちゃんのお世話は床に座る・しゃがむ動作の連続。ベビーベッドの横で膝立ちになったり、おむつ替えで床にぺたんと座ったり。気づかないうちに、腰と足が長時間ひんやりした床と接しています。
腎は腰と関係が深いとされます。実際、腰の使いすぎは腎の消耗サインとして見られることが多いです。
僕は生後4ヶ月のころ、知人からゆずってもらった抱っこひもを使っていて、見事に腰と肩をやられました。あとから見直したら、赤ちゃんの位置がかなり低かったんです。低い位置で抱えると、その重さを腰で受け止めることになる。鍼灸師なのに、自分の体で普通に失敗しました。
腰の負担については、道具の見直しがいちばん効きます。 → 抱っこひもで腰・肩を痛めない正しい装着方法
「今日は何回起きるかな」「熱っぽくないかな」と、常に半分アンテナを立てている状態。この緊張の持続も、東洋医学では消耗と見ます。
腎の貯金が減っている状態を、東洋医学では「腎虚(じんきょ)」と表現します。病名ではなく、あくまで体の傾きを表す言葉です。「今、貯金の残高が心もとないですよ」というサイン、くらいに受け取ってもらえたらちょうどいいです。
整骨院で15年、いろいろな方の腰を診てきました。
冬に来られる方の腰痛には、はっきりした特徴があります。
朝がいちばんつらい。動き出すと少しマシになる。でも夕方にまた重くなる。
そして触ってみると、腰そのものより、腰から下――お尻、太ももの裏、ふくらはぎまで含めて全体的に硬くて冷たい。上半身はそこそこ温かいのに、腰から下だけ温度が違う方も珍しくありません。
この「腰から下だけ冷たい」パターンが、東洋医学でいう腎の弱りにいちばん近い状態だと感じます。
冬の腰痛が夏と違うのは、筋肉の問題だけで説明しきれないところです。
寒いと血管が縮んで血の巡りが落ちます。巡りが落ちると筋肉に酸素と栄養が届きにくくなって、硬くなる。硬くなると動きが悪くなって、同じ動作でも負担が増える。この悪循環が、冬は勝手に回り始めます。
さらに育児だと、寒さで体を縮めた姿勢のまま抱っこをします。肩をすくめて、背中を丸めて、腰を反らせる。この姿勢が腰にはいちばんきついんです。
だから僕は、冬の腰対策では「腰をほぐす」より先に「腰から下を冷やさない」を優先します。順番が逆だと、ほぐしてもすぐ戻ります。
腰まわりのケアはこちらもあわせてどうぞ。 → 抱っこで腰が限界…鍼灸師15年が本音で教える腰ベルトの選び方
ここでひとつ、大事な考え方をお伝えします。
腎を養うというと「何かを足す」イメージを持たれがちですが、東洋医学の腎に関しては、減らさないほうが本質です。
なぜなら、腎の貯金は増やすのに時間がかかるからです。一日で劇的に回復するタイプの働きではありません。だから、大きく入金しようとするより、無駄な出金を止めるほうが早い。
出金を増やすのは、主にこの4つです。
4つ目は少し不思議に聞こえるかもしれません。ただ、育児中は「この子に何かあったら」という不安が常にあります。それを一人で抱え込み続けると、体にも来る。東洋医学は昔からこの結びつきを見ていました。個人的には、これがいちばん腑に落ちる部分です。
だから腎の養生は、根性論ではありません。
温める。早く寝る。無理をしない。不安を一人で持たない。
拍子抜けするくらい地味ですが、東洋医学が2000年以上かけて出した結論がこれです。
冷えそのものについて詳しく知りたい方は、こちらもどうぞ。 → 産後の冷えが体に与える影響|東洋医学から見た「冷え」の正体と対策5つ
ここからは具体的にいきます。全部やらなくて大丈夫です。ひとつでも今日から始まれば十分です。

腎を養う話で、僕が最初に伝えるのはこれです。
足首の内側には、腎に関係するとされる場所が集まっています。そして足首は、家の中でいちばん無防備になりやすいところ。部屋着のズボンが短かったり、素足だったり。
くるぶしが隠れる靴下をはく。それだけです。冬用の厚手じゃなくてもいいので、とにかく足首を出さない。
僕は家では冬中ずっとレッグウォーマーをしています。地味ですが、腰の調子がはっきり違います。
おへその真裏あたり、ベルトのラインの少し上。ここが腎に近いとされる場所です。
使い捨てカイロを貼る場合は、必ず服の上から。低温やけどを避けるため、直接肌に貼らないこと、寝るときに使わないことは守ってください。
湯たんぽや電気毛布を使う方はこちらも参考に。 → 育児中の冷え対策に!電気毛布・湯たんぽの選び方と使い方
シャワーだけの日が続くと、冬は本当に体の芯が冷えます。
ただ、育児中に毎日ゆっくりお風呂は現実的じゃないですよね。だから「5分でいいから浸かる」でOKです。40℃前後のぬるめで5分。それでも足首から先の温度が変わります。

腎の入金タイミングは睡眠です。寝かしつけが終わったあとの自由時間は貴重なので「スマホをやめろ」とは言いません。
ただ、10分だけ早く切り上げる。それだけで入金額が変わります。
朝、起きた瞬間にガバッと起き上がると、冬の腰にはきついです。
布団の中で、両膝を立てて左右にゆっくり倒す。10往復。それから横向きになって、手をついて起きる。これだけで朝の「うっ」がだいぶ減ります。
寝る前のケアはこちらにまとめています。 → 育児疲れが翌朝リセット!寝る前10分ストレッチ完全版
冷たい飲み物を減らして、白湯やほうじ茶、味噌汁を増やす。
とくに朝いちばんの白湯は、内側から温めるのに使いやすいです。育児中は自分の飲み物を後回しにしがちなので、「赤ちゃんのミルクを作るついでに自分の白湯も」くらいの組み込み方が続きます。
東洋医学では、黒い食べものが腎を養うとされています。黒ごま、黒豆、ひじき、わかめ、きくらげなど。
科学的に「腎が回復する」と証明されているという話ではありません。ただ、これらは実際に栄養価が高くて、冬に不足しがちなミネラルも含みます。
ごはんに黒ごまをかける。味噌汁にわかめを足す。それくらいで十分です。根菜(大根、にんじん、ごぼう、里いも)を煮物にするのも、体を温める食べ方として理にかなっています。
道具はいりません。テレビを見ながらでもできます。
腎に関するツボの中では、いちばん有名で、いちばん場所がわかりやすいです。迷ったらここだけでもいいくらいです。
「泉が湧く」という名前のとおり、エネルギーが出てくる場所とされます。冷えて眠れない夜に、布団の中でやるのがおすすめです。
腎兪は、押すツボというより温めるツボだと思ってください。手を当てるだけでも十分です。冬は、この場所にカイロを貼る(服の上から)のが手軽です。
ツボ押しの基本ルールはこちらにまとめました。 → ツボ押しの正しいやり方と押してはいけない場所
東洋医学の考え方は生活に落とし込みやすい反面、なんでも説明できてしまう危うさもあります。
次のような場合は、腎うんぬんの前に医療機関で診てもらってください。
とくに「しびれ」と「じっとしていても痛い」は、様子見の対象ではありません。整形外科や内科に相談してください。
また、この記事のケアは体を温める方向のものです。発熱しているとき、炎症で腫れて熱を持っているところには行わないでください。
妊娠中の方は、ツボ押しについて必ずかかりつけの先生に確認をお願いします。
腎の話とつながる記事をまとめました。
冷えの正体をもっと知りたいとき → 産後の冷えが体に与える影響|東洋医学から見た「冷え」の正体
体質別の温め方を知りたいとき → 育児中に悪化する「冷え性」の原因と体質別の温め方
疲れが抜けない理由を東洋医学で知りたいとき → なぜ育児でこんなに疲れるの?東洋医学の「気・血・水」で読み解く
腰の負担を道具で減らしたいとき → 抱っこで腰が限界…腰ベルトの選び方と正しい使い方
経絡やツボの前提を知りたいとき → 経絡(けいらく)ってどんなもの?初心者向けにわかりやすく解説
温めグッズを探しているとき → 育児中の冷え対策に!電気毛布・湯たんぽの選び方と使い方
五臓シリーズ第2回、腎の話でした。
腎は、体を温める土台であり、腰を支える力であり、日々のスタミナの元手を預かっている場所。そして冬にいちばん消耗しやすい、というのが東洋医学の見方です。
育児中は、細切れ睡眠・冷たい床・抱っこの腰負担・気の張り。腎の出金要素がフルセットで揃っています。だからこの時期に腰と冷えと疲れが同時に来るのは、体としてはむしろ自然な反応なんだと思います。
やることはシンプルです。
| やること | 具体的に |
|---|---|
| 足首を隠す | 靴下、レッグウォーマー |
| 腰とお腹を温める | 服の上からカイロ、湯たんぽ |
| 湯船に浸かる | 5分でいい |
| 10分早く寝る | スマホを少し早く置く |
| 温かいものを飲む | 白湯、味噌汁 |
| ツボを押す | 太渓・湧泉・腎兪 |
僕自身、抱っこひもの装着ミスで腰をやってから、冬の腰対策はかなり真剣にやるようになりました。鍼灸師でも自分の体には油断します。
全部やろうとしなくていいです。今日は靴下をはく。それだけでも、冬を越す体づくりは始まっています。
次回の五臓シリーズは、また季節に合わせてお届けします。
※ 本記事は一般的な健康情報であり、医療行為や医師の診断の代替ではありません。強い痛み、しびれ、発熱、排尿のトラブルなど気になる症状がある場合は、整形外科・内科などの医療機関にご相談ください。
整骨院勤務15年・鍼灸師パパより